強い将棋ソフトの登場以降、将棋界も色々と変わってきた。
ここ数年の出来事を簡単に振り返りながら私の感じている事をつらつら述べていきたいと思う。5,000文字以上あるので暇な人以外は読まなくて 大丈夫ですよ^^
いや…もう誰がやっても勝てない事は薄々分かっていた。
人間は真っ向勝負ではなく積極的にCOMのバグをつきにいくゲームとしてみるべきだろう。
2016年には、プロ棋界を危うくする大事件があった。
巻き込み巻き込まれた一流棋士達、モノ言う観戦記者、謎の怪文書とわけのわからない事象が絡みまくって『週刊文春』はじめマスコミの格好の餌食となった。
結果、三浦棋士は冤罪である。
一度ついた負のイメージはそう簡単に払拭できない。
私は思う。
本当にやったのは誰?・・・と。
一連の流れにシラケたファンも多かったはず。
そうした将棋界のダークなイメージを払拭しようと登場したのがひふみん先生。
持ち前の明るさ・天然さ・天才さでいまやバラエティではひっぱりだこである。
しかし昔からあんなキャラだったのになぜ突然人気者として押し上げられたのか、タイミングが良すぎやしないか。将棋をブーム(市場)にしようとするマスコミ力学が働いたのかもしれない。
さて、この頃からアマはアマで勝手にやりますという流れを感じるようになった。
要因としてはやはりソフト。
それを使えば棋書を精読しなくても、強い人から情報収集をしなくても、誰でもソフトが示す評価値の名のもとに正しい形勢判断が出来るようになった。
対局の有料中継すら評価値をコメントに加えて発信していた時期もあり、将棋連盟お墨付きの勉強法である。
これに目をつけたのがSNSで発信する将棋ファン。
プロやアマチュア全国クラス、(現役or元)奨励会のようなブランドが無くても「ソフトは~」と添えるだけで評価(いいね!&リツイート)を得られるようになった。
その流れはさらに加速する、Twitter・ブログ・Youtubeこれらを活用して将棋連盟が補完しきれていないサービスを瞬く間にアマチュアが埋めていく。
例えば…
・YoutubeのLIVE配信でプロ棋戦をソフトの評価値を見ながらみんなで観戦。
・指された着手をTwitterで即座に形勢判断して発信!(勿論ソースはソフト)
・対局終了後はポイントだった局面をソフトで分析してSNSで公表・解説。
・既存の定跡をソフトを使って検討する試み。
などなど。
従来は、将棋の専門的な解説はプロ棋士が担ってきた仕事だった。
地方であれば早くて『週刊将棋』、じっくりなら『将棋世界』で知るしかなかったのだが今ではソフトとSNSの普及で当日中に無料で享受することが出来る。
もはやプロもソフトを使い、時にはアマチュアのソフト研究サイトを見て序盤を研究するようになった。
次第に序盤は、人間の自力&才能で創る比重が少なくなりソフトの手を参考に組み立てられるようになる。
同時に新手や新戦法の賞味期限も短くなり、どれがなぜ消えたのか、今まで以上に情報整理の技術が求められることになった。そしてソフトを使えばアマもプロもさほど関係無く、時間が沢山あって、ソフトが入った高スペックなPCを何台所持しているかが大事という時代になった。
定跡書に関しては、プロは何を語るか難しい時代になった。
「携帯中継」などの棋譜サービスの普及・SNSとアマチュア研究家の台頭により、発売した時点で内容が1年以上遅れという事が目立つようになった(旧来は半年遅れ)。
そうした評価(レビュー)はTwitterなどの将棋系インフルエンサーの手で簡単に拡散されていく。
現在おおむね好意的なレビューが多いがこの先どうなっていくかは分からない、著者に対してドライで愛が無い人ならば売り上げに影響するような事も書けてしまうだろう。
ここからは私の予想。
今後苦しくなるであろう定跡書のスタイルは…1冊の本に戦型の異なる複数のテーマを詰め込んだもの。1テーマに割けるページが少なく、どうしても駆け足の時系列で最新の棋譜をペタペタ並べて解説するスタイルなりがち。これは大変失礼な言い方かもしれないがアマチュアが書いたブログを読んでいる感覚と同じである。
今やアマでも最新棋譜を入手して分析できるので、割けるページも少なければ自然とポイントは似通ってくる。
もっと言うと、居飛車でも振り飛車でも全テーマに興味のある人自体が少ないので、必要なページだけ立ち読み、家に帰って最善手をソフトに聞けば買う理由が無くなってしまう(著者や将棋界に愛があれば買うけども)。アマではなくプロがブランド力を使って書くから意味があるのかもしれないが、そうした価値観は若い将棋ファンが増えるにつれて変わっていくと思われる。
逆に、棋士がそれ相応の熱量で1つのテーマについてしっかりした分量で書いた本は、今も昔も支持され続けていると思う。魂を込めて書いた棋書は、行間にその戦型のヒントがたくさん散らばっている事に価値があり、結論がソフトで破れたとしてもたいした問題ではない。
ただし、かなり骨の折れる作業なので著者となる若手棋士をどこまでその気にさせられるか、出版社の腕にかかっている。
そして今後流行るスタイルは、『飯島引き角』『嬉野流』などのオリジナル戦法と予想。ソフトが流行りすぎて最新形を指すのがつらい時代、そんな時は我が道を行く戦法が支持される。昔、『B級戦法の達人』という奇襲本があったが、プロが本気で研究して命を吹き込めば面白い内容が出来そうである。
将棋の勉強法も変わってきた。
本を読まなくても、TVの解説をみなくても、有料放送を見なくても、Youtube・ブログ・Twitterを見ればポイントが秒で頭に入ってくるようになった。県代表クラス以上は当たり前、元奨励会3段みたいな人が発信しているのでやる気の無いプロよりよっぽどためになる。しかもSNSは競争原理が働いているので見せ方・教え方も工夫されており非常にわかりやすい。アマチュアの本職は会社員なので人にモノを教える・伝えるテクニックはプロよりも優ると思う。
以上、簡単ではあるがこのような流れでアマがプロの土壌を浸食するようになった。これは別の見方でいうと今まで将棋連盟が独占していた将棋関連の(潜在的な)財が散らばっていくことを意味する。
棋士はソフトにより強さという信頼を失った。
どこに価値を見出すのか…将棋界終了かと思いきや事態は意外な方向へ。
ターニングポイントはやはり電王戦。
「ソフトvs人間」のPVを見た時に思いませんでしたか?
なんか…棋士の個性ってめっちゃ濃くね?と。笑
それまで彼らは寡黙で謎の多い生命体だったのだが、こんな面白い人達がいるのか!と注目を浴びるようになった。これは当の本人たちも想定外だったはず。
一昔前のイメージで言うと将棋は狭い世界で面白い事を言ってその世界でのみウケる、広い世間から見ると「なんやあいつら?」という感じでは無かっただろうか。だから棋士の広告塔は強くて品行方正な人が良いという風潮があった。
しかし、時代が変わった今はどうだろう。
棋士も将棋ファンも若返り「いいぞもっとやれ!」という多様な価値観が支持されるようになった。真面目で頭が良い将棋指しがこんな面白い事をやっている、将棋界はギャップ萌えの巣窟だったのだ!
かつて棋士にとって絶対だった強さのパラメータは一流じゃなくてもOK、棋士でさえあれば十分という時代になった。なぜなら、それだけ棋士は個性(いじりがい)があるからだ。
それの最たる例はこんな感じ。
・棋士+芸能人
・棋士+アイドル並のルックス
・棋士+高学歴
・棋士+株主優待
・棋士+キリシタン
・棋士+経営者 ・・・
なんじゃこりゃ!というのもちらほら(笑)
しかし裏を返せば棋士自身が自分たちの価値に気付いたとも言える。
一流棋士になり棋戦収入のみで暮らしていける棋士はごくわずか。
棋士という肩書を使いどう生きていくか考えていく時代になったのではないか。
※竹俣女流も写真集『紅本』で自分の将来は複数の職業を持っているかもしれないと言っている。
これは、新時代の幕開けである。
SNSを通じて好き勝手につぶやく棋士もいれば徒党を組みイベントを行う棋士もいる。
それを後押ししたのが「観る将」さんの絶大な発信力!
失礼な言い方ではあるがそこまで棋力が高くないからこそ発見できた将棋の魅力というものがあったと思う。私は、棋士が何を食べてどんなネクタイをしてどんな表情をして、趣味は何とか全く興味が無かった(汗)。
しかし、観る将さんの視点は棋士たちの日常の法則性について気づかされる事が多く、とても興味深い。
将棋を分からなくても、指せなくても、楽しめる要素がある!!
これは、コロンブスが新大陸(市場)を発見した事に等しい。
観る将さんの「気づき」の力は、暗黒時代に突入しかけていたプロ将棋界を救った。
さて、華やかな世界の裏でしんどい話も。
棋士の数が毎年増えて仕事の奪い合いも激化している(はず)。
最近は、若いうちからプロもシノギの手筋である。
特に新規の将棋教室出店及び経営が増えてきたなぁと感じる。
教室は一昔前であれば全盛期を過ぎたベテランがやっていたイメージがある。
それが今では現役バリバリの若手棋士がやっているのだ。
将棋ファン急増に伴い普及に貢献したいという気持ちの一方で、このまま棋士は安泰なのかという不安も少なからずあるだろう。将棋ブームの今は良いかもしれないが将来的に都市部では顧客の奪い合いが始まるかもしれない。若くて実力と人気のある今のうちに囲いこもうという意図かもしれない。
さて、そうなると有料教室で生計を立てている既存の指導者はしんどいと思う。プロもしんどいし、アマもしんどい。そのうち仕事を求めて田舎に移住してくるプロも出てきそう。そして全国にプロ棋士ネットワークの構築を図り地方にプロを住み込みで出張させる試みも行われるかもしれない。日本中を押さえた後は、いよいよ海外に長期滞在命令なんてのも出るかもしれない。そのうち奨励会試験やプロの昇段規定に「TOEIC 〇点以上」と条件が課されたりしてね(笑)
アマチュア将棋タレント養成所であるYoutubeでも面白い事があった。
元奨励会員の方が活躍しているのは有名だが、現役プロ棋士が参入した。
近頃は人気アイドルグループのメンバーがYoutuberになったりと、ホンモノのYoutube参入が相次いでいる。そのうち、2人目・3人目と人気棋士や女流棋士、人気タレントなんかも参入して牌の奪い合いが激化する可能性はありそう。
アマがプロの担うべき土壌を開拓して種をまき、そこにプロが入る。
SNSの世界では仁義なきにしもあらずの戦いが始まっているのかもしれない。
さて、今後の将棋界が盛り上がる材料は何だろうか。
究極は、将棋が学校の授業になることだが(笑)、これは棋士×総理大臣が誕生しないと現実味がない。
まぁよくいわれているとこでは…
羽生先生が永世7冠王を達成したし…・
新世代の若いタイトルホルダーも登場したし…
となると、やはり藤井聡太棋士の活躍だと思う。
彼は放っておいてもタイトル獲るのでそれはいいのですがやはり・・・
対ソフト!!
彼ならやってくれそうな気がする、気がするだけ。
さすがにソフトに勝てないことは分かっている。
下手に対局して将棋人気を落としても悲しいだけ。
でも何かしらソフトと絡んでやってほしいというのが個人的な願望である!
普段本は全然読まないけど『藤井聡太はAIに勝てるか?』は注目したい。
あとは、女流棋士ではなく女性の棋士の誕生。
里見さんは第一人者として注目されすぎて疲弊していた部分もあった。
女流棋戦で指した将棋を奨励会で研究されたら勝てるわけないよー。
残る西山三段を応援したい。
注目点として、テクノロジーの進化からは目が離せない。
ズバリ、対ソフトのための将棋ソフトが開発されたら面白い。
人間vsソフトは冒頭でも述べたがゲームの領域に近く、将棋ソフトのバグを見つけるのに特化したソフトの発売が待たれるとこである。
最後にアマの将棋関連で面白い動きが。
最近、若くして将棋を生業とする個人事業主が登場している。
「将棋道場・教室なんて儲からない、やめておけ」というのが先人の教えなのだが…Youtubeに代表される「好きな事で生きていく」という流れが将棋にも来ている。
将棋を教えて食っていくなら基本的にプロになるのが手っ取り早いのだが簡単になれるものでもない。プロはプロなだけでブランド力があるがアマはそれが無い。
しかし、SNSの普及で自分は何者であるかを大いにアピール出来るようになった。
アマも三段くらいあれば、将棋人口の中では上位数パーセント。
プロが棋士でさえあれば一流でなくても評価されるようになったのと同様に、アマも三段くらいあればプラスアルファ何かあればやっていける可能性はある。
都会では「学習塾×将棋教室」というのが成功している。
このコラボは昔からあるのだが生活していけるくらい稼いでいると聞いて驚いた。
学習塾は親が一番に投資するお金で、その次にスポーツ・ピアノ・習字などがあるらしい。習い事として将棋の優先順位はかなり下。将棋ブームが来ている・将棋人口が増えているとはいえそれらを蹴って将棋にお金を出す層はパーセンテージ的に少ないはず。しかし将棋だけに捉われず色々と頭を使えば手段はあるのだろう。
まぁ手っ取り早いのは日本将連盟から仕事を貰う事、棋士から紹介される事なんだろうけどね(笑)。
最近出来た大阪の将棋バーは、びっくりするくらい棋士に愛されている。
同じ将棋バーでもなんでこんなに違うのか。(何のことかは察して下さい)
やはり人柄は大事なのだろう。
今やサラリーマン勤めをしても65歳定年、若い人達は75歳定年の世界。
75歳って(笑)…セカンドライフで将棋も楽しめない。
これからは、リスクを取っても自分の生き方を大事にしたいという人が増えてくるのかなと思う。
ちなみに私には無理!!(;´Д`) もうリスク取れないぽよ。
なので、今後も削られながら将棋界の色々な状況をつらつら書いて生きていきます。
長文でしたが読んで頂きありがとうございます<m(__)m>
コメント
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おもしろく 読ませていただきました
2018/03/18 URL 編集
あべしん
ありがとうございます!
励みになります^_^
今後ともよろしくお願いします。
2018/03/18 URL 編集