定跡書に書いてある棒銀vs四間飛車とは、下図の青丸で囲んだ▲57銀左舟囲いから繰り出される一連の攻防のことを指す。
ここまでしっかりと、お互いが駒組みをすることが出来れば、知識だけならもうすでにお互い中級~のレベルはあると考えてよい。
ではなぜ、青丸で囲まれた居飛車の陣形が、棒銀の基本形とされているのかを、考えたことはあるだろうか?
古くは原始時代、原始棒銀という居玉ノーガードで襲い掛かってくる戦法があったそうな。
そこから居飛車棒銀族の先人達が、
「さすがにノーカードでは反動が厳しい、少し囲おう」という経緯があり進化していったのではないかと勝手に推測している。
【原始棒銀の進化の過程】
1、原始棒銀(居玉)
↓
2、▲68王型で棒銀
↓
3、▲78王型で棒銀
↓
4、▲78王+▲58金右型で棒銀
↓
5、▲78王+▲58金右+▲56歩型で棒銀
↓
6、▲78王+▲58金右+▲56歩+▲68銀型で棒銀
↓
7、現在の棒銀=▲78王+▲58金右型+▲56歩+▲57銀左型
この講座では、1~6までの原始棒銀の進化を辿りながら、なぜ現代の▲57銀左舟囲いになったのかを見ていこうと思う。
そして、ただただ解説してもしょうがないので、原始棒銀一連の受け方を通じて、四間飛車全般に使える考え方を【捌きの手筋】として紹介したい。
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□対 原始(居玉)棒銀
まずは原始(居玉)棒銀の受け方を見ていく。
原始棒銀は、ネタのような名前だが、初級クラス同士の戦いではよく出る戦法だ。なぜなら、将棋指導者のほとんどが「一番最初は棒銀!」というポリシーで教えているからだ。
さて、原始(居玉)棒銀とはその名の通り、▲59王の初期位置から動かない戦法だ。上図以下▲36歩。

▲36歩は3筋から攻めますよという意味なので、ここで殺気を感じなければならない。上図以下、3筋に殺気を感じたので△32銀と上がって攻撃に備える。
以下▲37銀。
ここからの後手の方針について。
3筋をさらに守るとすれば上図以下角頭をガードする△43銀が考えられる。
↓
しかしそれは、王様を安全地帯へ移動する△62王と比べて優先度が低い。
→なぜなら△32銀という形がすでに居飛車の急戦策に強い形だからである。←大事な考え方! (具体的に△32銀型には△45歩というカウンターがあるから。これについて後で説明する。)
上図以下△62王。
以下▲26銀。
ここでどう指すか?
・△45歩
・△72王 を検討する。
・△45歩の変化
次に▲35歩と角を狙われそうなのでその前に△45歩と角を交換しにいく。
上図以下▲35歩と攻めてきてくれれば…
以下△同歩▲同銀△88角成▲同銀△55角という切り返しがある。
以下▲37歩には、△36歩と打つのが△55角のラインと連動した急所の攻め。
・以下▲77角には△37歩成から攻め合って後手良し。
・以下▲38金は△37歩成▲同金△36歩が激痛だ。
以下▲同金は△28角成で飛車がとれて大成功。
【捌きの手筋1 角のラインで攻める】
このように、
角のラインで攻める手筋は四間飛車では頻出するので覚えておいてほしい。
再掲下図。
△55角に▲18飛はどうするか。
後手は以下△46歩と突きたいのだが現状は▲35銀が守りに利いておりうまくいかない。ここでも四間飛車党はぜひ覚えておいてほしい捌きの手筋がある。
それが△34歩と銀に移動してもらう手筋。
【捌きの手筋2 歩で銀の位置を変える】
立ち退き料(歩)を払って、▲35の銀に動いてもらおうという発想。
以下▲34同銀。
銀が近づいてきて怖いかもしれない。しかし▲35にいた銀が▲34へ移動したので△46歩と突くことができる。
以下▲同歩△同飛で後手の飛車が捌けてきた。
上図以下、△47飛成を防ぐ▲48歩は△88角成で銀がタダ取りなので先手あかん
再掲下図。
では以下▲37角の受けにはどうするか。
これ結構難しいです。以下△47飛成は▲55角と角をタダ取りされるので失敗。
上図は決断するべき局面である。
【捌きの手筋3 陣形差があれば駒損の攻めが通る】
さて、ここでは局面の中にある対比構造、陣形に注目だ。
先手陣(❓)は連携が取れておらずガタガタ↔後手陣(青)はしっかりとまとまっている。そういう時は…
↓
駒損の攻めが通る可能性が高い!「駒損しちゃだめよ」と教わったかもしれないが、陣形差で有利であれば、頭のスイッチを切り替えて、駒損の攻めを考えてみるのも良い。
上図以下バッサリ△49飛成!
飛車を先手に渡したので報復が怖いかもしれないが、△32銀+△41金の連結が素晴らしく、先手は後手陣へ飛車を打ち込めない。上図以下▲同玉△37角成▲同桂△27角
後手は飛車と金を交換した。駒損ではあるが、先手陣を切り刻んだのでこの強襲は成功したと言える。上図以下▲58王△18角成▲同香△38飛
以下▲48角に△36歩(桂馬は頭が弱点)で後手の攻めが続く形だ。
△36歩が次に△37歩成でと金になれば、駒損の回収は容易い!
再掲下図。
しかしながらこの△45歩。
ちとタイミングが早いと感じる。
上図以下▲37銀と棒銀を諦める手が後手にとって厄介。
こう指されると、先手の棒銀を防ぐことは出来たが、戦法のジャンルがノーマル四間飛車ではなく△45歩型角交換振り飛車になってしまっている\(^o^)/
↓
これで後手が悪いわけではないのだが決定的に良いというわけでもないのが問題。
後手が上図以下分かりやすく攻めの体制を作るとどうなるか。上図以下△72王▲68王△88角成▲同銀△33銀▲78王△32金
以下▲77銀△44銀▲24歩△同歩▲同飛△23歩▲28飛△55銀。
△32金で2筋を守り△55銀から4筋を強襲する狙いだ。しかし居飛車は冷静に以下▲58金右と陣形を整える。
以下初志貫徹で△46歩▲同歩△同銀▲同銀△同飛
後手の言い分が通った局面だが、以下▲55角が見た目以上に厳しい反撃。
以下△49飛成と突っ込む。
ここで▲48飛とぶつけるのが狙いのカウンター。
以下△同竜▲同金△39飛▲11角成
以下△29飛成に▲12飛が厳しく居飛車良し。
「陣形差」という観点からみると、後手は△32の金が守りに利いていないのが痛い。
対して先手の▲48金は、同じ離れ駒でも△32金と比べて一路自玉へ近いのが大きい。具体的に▲48金+▲49歩(金底の歩)の守備の形や、▲58金寄としたときに▲69の金と一手で連結できるという違いがある。
上図以下、後手は金取りを受ける手段が難しい。以下△31銀は▲21馬だし、△44銀なら▲44歩(取れば金がとられる)で後手ダメだ。
再掲下図。
以下▲37銀と引いた局面。
以下下図のように普通に進めれば互角。
△45歩型の力戦角交換振り飛車というジャンルで、これはこれで楽しい将棋になるのだが上達を望むのであればお勧めしない。簡単を追求しすぎて、得られる上達のエキスが少ない作戦なので、長期的には実にならない。※現代の角交換振り飛車は△43歩型で有力。
【捌きの手筋4 単に△45ポンは冷静に受けられる手に注意】
※単に△45ポンじゃなければ後手が優勢になる、それは後から出てきます。
ちなみに山口女流の原始棒銀講座では単に▲65歩(△45歩と同じ意味)と突いている。
これは▲74歩と突いていないため▲65歩に△73銀とバックして受ける形にならないので成功しているというロジックである。そうした違いにも注目だ。
次は、△45歩が成功するパターンをみていく。
再掲下図
ここで△45歩ではなく、△72王と王様の堅くするのが私の推奨手。
【捌きの手筋5 王様の堅さは抑止力】
王様の堅さは、基本的に
・王様の周りの金銀の枚数
・王様の囲いの広さ
・王様の戦場からの距離
の3つで決まる。
結局、相手より王様が堅ければ、互角の殴り合いであっても有利になるし、時には無茶が通る(駒損の攻めなど)可能性が高いのだ。
△72王は攻めの手ではないが、王様が堅くなっているので、相手に攻撃された時のカウンター性能が増しているという認識。つまりこれは相手への抑止力になる。
有段者同士の将棋ですぐに仕掛けないのは、お互い抑止力を発動しているから。先に攻めた方が叩かれるという緊張状態が継続しているのである。
再掲下図。
以下それでも▲35歩ときた場合はどうするか。
はい、ここなんですよ!
これを△同歩は▲同銀で銀が攻めに参加するのでまずい。
なので、駒がぶつかったタイミングで△45歩と突くのが正解です。
単に△45歩と突く手との違いは、すでに35の地点で駒がぶつかっていること。
上図以下△46歩を防ぐために▲37銀と戻ると
△35歩と歩を取られて居飛車が失敗してしまう。
【捌きの手筋6 △45ポンのタイミングは駒がぶつかった時】
▲26銀がキャパオーバー、2つの戦争へ同時に参加することはできない。
再掲下図。
先手は受けないで攻め続ける。
以下▲33角成△同銀▲34歩
以下△同銀▲38飛△35歩
以下▲35銀△同銀▲同飛と突っ込んでくるが…
△26角の王手飛車があるので居飛車の攻めは無理でした~というのが結論です。
居玉(初期位置)がネックになって思いっきり居飛車は攻めることができない。
以下▲37飛には△28銀で駒得を拡大(銀で飛車をとる)していけば後手優勢。
【結論】
さすがに居玉(初期位置)は王手飛車がちらつくので、王様を一路▲68王と移動してから棒銀したらどうか?
それが次回の原始棒銀進化論第2講となります。
それでは今回は以上です。
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