観戦記のあとがき(R3.9/20~9/24 あべしん五段vsH田五段 山形新聞掲載分)

棋戦      :2021年6月6日
        第61回山形県将棋アマ名人戦予選2回戦
        ▲あべしん五段(山形市)vs△H田五段(酒田市)
         自戦記!!

山形新聞掲載日:2021.9/20~9/24 (全5譜)

・1譜 王将に誓う    9/20
・2譜 向かい飛車講座 9/21
・3譜 決め手を逃す  9/22
・4譜 H田くん対策  9/23
・5譜 指せることに感謝 9/24

戦型 :▲ノーマル四間飛車vs△玉頭位取り→急戦向かい飛車

※ブログでもこの将棋の記事書いてるよ。
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◎第1譜 王将に誓う 

第一段落目でこれは長い歴史のある戦いなんだということを伝えたかった。

第二段落目、将棋を知らない人のために解説すると、

1、王将を持つ人は一般的に強い方が持つと言われている。
しかし実際は、
・段位
・大会実績
・年齢
・先輩↔後輩
の4大要素を加味して対局者同士で直感的に決まる。とはいえ、どちらが持つかは曖昧で「どうぞどうぞ」の譲り合いになる。

原田君と私は、段位は五段で同じ。大会実績は原田くんが上、年齢&先輩後輩は私のが上。ガチ選手やっている分には大会実績めっちゃ大事だと思うので私はH田君が王将だと思うんですが、いつもH田君が王将を譲られるという。ここで「いえいえ」と断るのも微妙だし、まずなんていうか私が玉将を持つ事で相手が周りから「生意気だ」とかあらぬ誤解を受けるのも嫌なので私は「あ、すいません」と譲られたら受け取るようにしています。

2、振り駒は将棋の先手後手を決めるもの。
記録係は王将を持った対局者の歩を5枚振り、歩が3枚以上出たら王将の人が先手番となる。逆にと金歩の裏側)が3枚以上出たら王将の人は後手番となる。つまり、「歩の枚数を数えると私の方が多かった」→「私の歩が多い」→私が先手となります。

最後「山口さんうれしそうだったなぁ」は、「山口さん嬉しそうだったなぁ」で山形新聞に原文を提出したが平仮名に直されていた。これは非常に良い校正でプロの技を感じた。漢字よりも平仮名の方が山口さんの にまぁ~ っとした表情が伝わってくる。こういうフランクな方向の校正もするんだな~と思った。もしかして校正が私に合わせてくれている!?笑 
※これ、最後に謎が解けます。

本文、「家の前にH田タワーを完成する前に素早く動きたい」の意味は裏を返すと完成されると厄介ということ。玉頭位取りは作らせてはいけない。
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「四間飛車にこだわるなら▲66銀から▲55歩と仕掛けるのが定跡だが」というのは下図のような局面。
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これはどの定跡書にも書いてある定番の形ですね。
でも△62飛と全力ディフェンスされると大変。
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形勢が悪いわけではないのだが△24歩と玉頭の歩が伸びてくるので振り飛車が勝つ難易度が上がってしまう。玉頭位取りをやる人はこの歩を伸ばして終盤の玉頭攻めに命を懸けているのでその展開はやらせたくないんですよね。
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ということで、上図の展開ではスピード不足

では、どうするか。

四間飛車→向かい飛車へ鞘を構える。
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向かい飛車で△84歩→△85歩と2手かけた手を咎めるにいく
次は必ず▲86歩と抜刀!

これ、最初から向かい飛車を目指すとうまくいかないんですよ、相手もガッチリ備えるからなのでいったん四間とか三間で相手の体勢を崩して向かい飛車に構えるとうまくいく事がある、これ極意。剣道と同じ。

なんていうか、振り飛車ってそれ1本ではうまくいかないけど2個3個と技を増やすと捌けるんですよね。だから、無理と言われている戦法も勉強すると組み合わせ次第では大きな武器になる。

で、最終行。
「△5二金右で私の間合いに入った。かくご」と書いた。
これ最後の「かくご」は当初「覚悟!」だったが「覚悟!」だと本当に斬るんじゃないかという強めの印象もあり誤解を与えかねないので「かくご」と崩して平仮名にした。うん、なんでここを平仮名にできたのに2段落目の山口さんは平仮名で提出できなかったのか…
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◎第2譜 向かい飛車講座
1譜まるごと将棋の解説に使いました。将棋を知らない人は面白くもなんともなかったでしょう、すみません(>_<)。

で、解説をガチでやるからには、詰め込もうと思いました。

下図以下、△同歩▲同飛!
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向かい飛車は抜刀術みたいなところがカッコいいですよね。
一撃必殺的なところにしびれます。
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以下、観戦記では▲同飛、同角、82飛と・・・
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△88飛と打ってくる変化に触れました。
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上図以下▲82飛△89飛成と指してきたならもう振り飛車優勢です。
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上図で先手に好手があります、向かい飛車側から見たら定番の筋なんですけどね。正解は観戦記にかいてある!。

再掲下図。
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ここから△85歩、88飛と本譜は進む。
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この飛車引きも個人的にカッコいい。

▲86飛と飛車をぶつけた手に対して
   ↓
かちーん!と△85歩ではじき返す。
    ↓
▲88飛とサッーー💨っと後ろに下がる。
    ↓
深く引くのは再度抜刀術を使うため鞘へ刀を収めないといけないから。

その距離感。

くうううう、かっけぇぇな、俺の向かい飛車(>_<)
    ↓
そんで8筋の歩を手持ちにしたことで
 二撃目が生まれる。

はじき返されたから失敗なのではなく、向かい飛車には二撃目がある。
二撃目の意識大事!
    ↓
ここからは飛車だけではなく他の駒を使ってリードを奪いにいくという展開。
    ↓
本譜は以下△73桂でした。
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しかし代えて△64歩も一般的でこれならどうなるの?と思った方もいるはず。
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これには▲56銀と上がります。
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以下△34銀と後手は角を使いたいのだがその瞬間に▲65歩と角をぶつければ後手の陣形はもたないので崩壊する。
というわけで△73桂と▲65歩を防ぐ手が考えられます。
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以下、▲95歩、同歩、75歩。
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ここから△同歩はもちろん、△84飛や
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対向かい飛車定番の受けである△63金にはどうするかを、
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観戦記に書いておきました。

観戦記にそれぞれの変化について
最初は「1、2、3、4、5、」と番号を羅列していたのですがちょっと聞いてください。

下図から、私の当初の構想は、
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上図以下△同飛、▲同角、
△88飛
△82飛
と番号を振ろうと思っていた。
そんで下図以下の変化に番号を振ると
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3、△同歩
4、△84飛
5、△63金
となる。いや、これどうなんですかね~?

というのも、1&2 と 3&4&5は、
変化が発生する局面が違いますよね!

うーん、ダメではないけどなんか微妙だな~。

そこで最初の2つを 1、と 2、という表記。

後の変化の3つを 壱、弐、参、にしようと思った。

・・・。

なんで、①やⅠ、一じゃなくて壱なのと思った方、そうです!
私はこの時期わたしはヒジョーに「鬼滅の刃」に毒されていたのです!!

実は、この譜の最後に当初は向かい飛車の捌きを称えるため

鬼滅の刃で言う霹靂一閃(へきれきいっせん)の捌きが決まった。」

という一文が入っていた。

鬼滅の刃 は 壱の型・弐の型 という言葉を使うんですよね。

世界観を鬼滅にしたかったのだが、読んだ人が「なんだこれ!!」と鬼になるといけないのでひよってやめました…。

つまり鬼滅ネタを入れるのをやめたということは、壱・弐も使う意味がない。

というわけで山新への提出は番号を振らずに超無難に「・」にしました。

そして、新聞に掲載されたのを見たら・・・


① ② ③ ④ 

 ( ゚Д゚)!


◎おまけの変化
△44銀左とグイッと来る手は考えられる。
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後手は銀と角の力で▲56銀を押し返して仕掛けを封じる狙いだが、以下▲95歩、55歩、47銀引、95歩、同香と対応する。
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9筋の端だけで手を作りに行く。
以下、△93歩にどうするか。
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ここで良い手がある。以下再度の▲86歩、同歩、同飛、85歩、96飛。
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これがめちゃくちゃカッコいい捌き。1手で▲88の飛車を96へワープする。
以下△84飛には59角と引く。
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この角引きは飛車交換になったときに後手から角取りの先手で飛車を打たれるのを避けたという意味。先手の次の狙いは▲97桂→▲86歩の飛車交換。上図以下△94歩、同香、同香、95歩、同香、同角、94飛、82歩。
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・上図以下△73桂なら▲97歩で飛車にひもをつけて先手良し。
・上図以下△93香なら堂々と▲81歩成、95飛、同飛、同香、92飛で駒損でも陣形差で先手良し。

◎第3譜 決め手を逃す
下の局面で良い手があるんですが見えますかね?
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何かすごい手がありそうな気はしたんだけど分からなくて本譜は▲74ととした。まぁそれでも優勢なのだがAIに聞いたらマジか~という捌きを示してくれた。新聞に書きました。

最終段落、「ジュニア時代から長手数の詰将棋を解かないと脳内盤が形成されないからあとあと困るよ」云々は定番のメッセージ。

20代半ばくらいまでは、手が見える時期なのであまり困らなかったが30代入ってガクーンときた。

原因は、将棋の勉強時間が減った(0に近い)老化!!。

若さプレミアムが消えるとコツコツ詰将棋を解いて力をキープする努力をしないといけないのだが、若いころにやらなかったことはできないですね

解く努力ができない、解き方が分からない、忍耐力が続かない、習慣になっていない、楽しく感じないなど様々。

今の10代20代で若いから強い、何もやらなくても強いという人は覚悟したほうがよい。最後は長手数の詰将棋を解いている人に勝てなくなる。

という話をつらつら書いたのだが途端に気分が暗くなりますよね(>_<)!せっかく金払って時間を使って観戦記を読んだのにドヨーンとしたではあひゃ。なので最後にドラクエ。この1行があるかないかでだいぶ違うと思う。

◎第4譜 H田くん対策
H田くんは実はクレバーな選手で作戦家なんですよという事を伝えたかった。

H田くんは終盤が強い、これはみんな知っている。
H田くんのすごいところは自分の長所をよく理解していて、終盤の強さを活かすにはどうしたらよいかというゲームプランをひたすら考えている事。

だからこそH田くんは数々の逆転勝ちを収めてきた。これ偶然じゃなくて、最初からそういう狙いもあってのことなんですよね。

正直、当初はH田くんはキャラ的にもまさかそこまで考えてやっているとは誰も思っていなかったと思うんですよ。運が良いとか終盤だけとかそういうことで片づけられてきたけど違っていた。我々はH田劇場の観客だったわけ。

ゲームプランで勝つという概念を山形に取り入れた人はだれか?と言われたらまずは彼の名前をあげたいですね。
        
◎第5譜 指せることに感謝

本文中に出くてるI垣さんは、山形東高を首席で卒業して、通信教育が今ほど発達していない時代に東京大学に現役で受かり弁護士をやっている方。大学3年で新宿将棋センターに通いはじめ、将棋沼にハマってしまったという異色の経歴を持つ。一番強いのは麻雀…。

最終行感謝の意、アマ名人戦について観戦記ではなく自戦記を書いているのは私だけなので選手として書いた。

インスピレーションを得たのはTVでたまたまやっていた全国中学選抜のニュース。本県代表のK沼さんがインタビューで

「久々に指せることが嬉しい、大会を開催してくれたことに感謝してる、(多分こんな内容)~~~~」

と「~し」で言葉を繋いだのが巧いと思った。

「Aし、Bし」という並列の「し」だと思うが、言葉で聞くと「Aし→Bし」となり後の「Bし」の方が感極まっているような気がする。これを用いると本当に感謝してるんだなというのが伝わってくる。「Aし、Bし」構文は入試には出ないけど、日常のコミュニケーションに出るよ。

というわけで、私も「H田君と指せて感謝してる」→「本大会で最も嬉しかった事は~大会開催してくれて感謝」で提出。

で、本日新聞を見てみると第1譜同様に「嬉しかった」→「うれしかった」に直されていた~~~~( ゚Д゚)

これに関してはわざわざ漢字を平仮名に直す意味がないのになぜ。
そこで気づいた!
もしかして今って「嬉しい」は使わないのでは!?調べてみたら、Yahoo!質問箱の回答によると「嬉しい」は常用漢字表に無いみたいですね。今は「うれしい」が一般的だとか。知らなかったな~~。

      
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あべしん

・アマ五段(県竜王戦優勝)の四間飛車党
・中学、高校、大学、社会人で県優勝
 →全国大会出場
・地元紙で将棋の観戦記を書いてます
・連絡先→kouteipengin6@gmail.com

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