とある奨励会員の実話を描いた漫画『将棋の子』を読み可哀想と思った

作品名:『将棋の子』全3巻
ジャンル:本当にあった奨励会退会までの話。
原作: 大崎善生 
 
漫画:菊地昭夫 
監修:勝浦修棋士
出版社:秋田書店(ヤングチャンピオン)
発行日:2003年6月26日
販売価格:514円(電子書籍:566円)
主人公:成田英二(なりたえいじ)

感想ネタバレ注意
大崎先生のノンフィション小説『将棋の子』を漫画にした作品です。

将棋の子=将棋の神様から選ばれた者の話と思うかもしれないですが逆ですね。
わりと悲惨な話ですので注意です。

奨励会生活を描いた作品は沢山ありますがこれはリアルな話なので読んでいてひたすら現実を受け入れるしかないという点でしんどいです。

奨励会が悪いのか?

本人の努力不足が悪いのか?

生まれた星の下が悪いのか?

才能がなかったのか?

いろいろと考えさせられる作品です。

この作品は数名の奨励会員の名前が出てきてスポットで描かれますが、全巻を通じての主人公は成田英二氏です。

英二は地元札幌の将棋道場で10歳三段、奨励会の話もあったが母と離れたくなかったので受験せず。

高校1年生のときに全国高校選手権で優勝。

ここで母が英二の夢を応援するため一緒に上京の決断をする。
英二は期待に応えるよう奨励会4級に合格。

母は、慣れない東京での暮らしに疲弊しながら英二に栄養価の高いものを食べさせるために働きはじめる。

英二の将棋は完全終盤型で序盤の研究を嫌うタイプだった。

それでも最初は奨励会で評判になるくらいの輝きを放ち勝ちまくることができた。

少年時代の剛腕スタイルを頑なに守り続けこれが俺のやり方だと信じて疑わない、それが強さであり脆さだった。

奨励会は才能を磨き上げる場所と同時に淘汰する場所でもある。

英二はトランプボウリングを覚えた。

学校に行かず将棋に打ち込んできた者同士、分かり合えるところもあったのだと思う。

  

そうこうしている間に羽生世代が迫ってくる。

 彼らの将棋観は序盤からしっかり研究して勝つという新世代の感覚。終盤オンリーの英二は序盤で大差をつけられ負けることが増えた。しかし英二は「研究なんて意味ない」と言い張る。


とある日、母の重度に進行したが発覚。


焦る英二、自分が将棋を頑張れば母は治るかも。

 

しかし奨励会はそこまで甘くなかった。

気づいたときにはすでに取り返しのつかない大波に飲み込まれた。 




6連敗…




7連敗…。



25歳まで三段にならないと強制退会である。


さらに悪い事に父が死亡

 

初段に落ちた後も全く勝てない。

 

ついに奨励会を退会する。

 

しかし英二をサポートすることが生きがいだった母にはそれを伝える事が出来ない。


毎回、母に嘘の成績を報告する。

 2連勝で喜ばせてはいけない、かといって2連敗でがっかりさせてはいけない、だから1勝1敗。ここが一番悲しいシーンだった。


□英二には何が足りなかったのか?

結果論ではあるが月並みなことを考えてみた。


英二は途中で序盤を研究しないと勝てないという事に気づいていたのだと思う。

しかし今まで序盤を勉強したことが無かったので勉強の仕方が分からなかったのかもしれない。


さらに悪い事に終盤だけで二段までいってしまったのでプライドが邪魔して誰にも聞けなかった説もある。序盤を研究したら逃げたと思われるのが嫌だったのでは。


または、勉強せずにプロになった先生を見て自分もそれと同じくらいの才能があると錯覚してしまったか。


プレッシャーもあったはず。

母と父は英二に期待してサポートするために上京をしてきた。その手前ギブアップも言いだせなかったのかもしれない。


いずれにしても奨励会は自分一人の価値観で抜けるのは難しいと思った。将棋も強くて(ここ大事)尊敬できる先生に出会えなかったのは悲劇だったかもしれない。


□成田英二さんの棋譜

棋譜DB 成田英二10秒将棋

 将棋連盟で指された10秒将棋が2局、将棋DBにありました。


下図、この▲34歩をくらうようでは後手敗勢。

キャプチャasd

しかしここから剛腕で勝つんだから想像以上の終盤力です。


福島の笠原伸也元奨励会員

この人のストーリーはすごい。

奨励会時代は羽生善治と互角に渡り合い将来を期待されたが、壁にぶつかり24歳二段で退会。社会人になり歩合給の不動産で好成績をあげるが物足りなさを感じる。退職して死ぬ思いで勉強、途中失明の危険まであったが見事に合格率2%司法書士に受かった。勉強のシーンがアツかった。


□各巻の巻末に5~6Pもある貴重な対談記事が。
1巻は羽生棋士。

2巻は谷川棋士。

3巻は中倉姉妹です。

『将棋の子』は才能淘汰を描く作品なのだが巻末は時代を彩るスターの対談記事でなかなかしんどい本である。さすがに本編を読んだ後に読む気にはなれなかった(笑)

  
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あべしん

・アマ五段(県竜王戦優勝)の四間飛車党
・中学、高校、大学、社会人で県優勝
 →全国大会出場
・地元紙で将棋の観戦記を書いてます
・連絡先→kouteipengin6@gmail.com

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