元奨励会三段の苦悩が生々しく描かれている。
それ言っちゃう?傷つくよ!というネガティブな部分も多く描かれているが、主人公のポジティブさがコントラストとなり絶妙なバランスでテンポよく進んでいく(こういう漫画は稀有で素晴らしい作品になる予感)。
元奨励会特有の負の感情については監修の鈴木肇元奨励会三段・アマ名人の尽力が大きいと思う。本人も退会した時は無念だったと思うがその経験を、心をえぐるような言葉を、このような形でまとめてくれたおかげで良い作品を読ませていただいている、感謝。
【あらすじとか感想 ※ネタバレ注意】
□1巻
奨励会三段リーグ退会から三年後の世界。
将棋しか知らない29歳の自分を雇ってくれるバイト先に感謝する日々。大学生からいい年こいてバイトかよ!と裏でバカにされているが気にする様子も無い。
5ページ目は、何かを悟りきった表情の安住。
それは死を待つだけの安らかな顔にさえ見える。
ページをめくっていくと、安住本人もそれを自覚していた。
将棋は自分の一部、避けて通れない。
しかしどう向き合うのか分からない
ある日、ひょんな事でバイト先の森さんと将棋祭りへ行くことになる。
多面指しの催し、安住は明星六段に挑む。
しばらく使ってこなかった将棋脳をフル稼働!
生き返る細胞たち!!
これを機に将棋への情熱を取り戻すのだった。
休日、将棋道場に行くと元奨励会三段の土屋と再会する。
土屋はわりと卑屈な性格で安住とは真逆の性格である。
将棋に人生をめちゃくちゃにされたと語る。未だ気持ちの整理がついておらず自分の居場所も分からない、まるで迷子のキツネリスのようです byナウシカ
2人はアマ竜皇戦東京予選に出場する。
-会場-
和気あいあいと盛り上がるアマチュアに土屋は敵対意識を燃やし
「俺たちのほうが将棋のつらさ、苦しみさ、難しさを嫌ってほど知ってるから絶対負けるわけいかねぇ(70P)」と言う。
安住は「違うだろ。みんな仕事をしながらなんの見返りもないのに、将棋が好きだっていう理由だけで集まってるんだ。この人達のほうがすごいんだ。俺たちに足りなかったのはそれだろ?」と返す。
奨励会三段だった人間なら将棋が絡む話でアツくなるところなのにさ、冷静に分析してこんなことを言えるまで達観しているとは思わなかった~~!すげぇ漫画だよコレ。安住っち、一周回って完全に悟りきっているね。
アマトップと元奨励会員の言われざる敵対関係についても描かれている。わりとタブーなとこもあると思うけどよく描いたなと。
プロ編入を目指しているアマ三冠片桐にとって元奨励会三段は鬱陶しい存在である。十分なチャンスがあったにも関わらず未練がましく大会に出てくる元奨励会員を哀れな目で見ている。
元奨励会員にとってプロ棋士編入試験は最後の望み。
特に将棋しか出来ない、棋士への道を諦めきれない人にとっては生活を安定させるためにはこれに賭けるしかない。したがって、大企業勤務で何の不自由もなく生活する片桐を元奨励会三段の土屋は良く思っていなかった。
お互い目指すところはプロ編入試験なのだが、ソリが合わないのだ。
□2巻
それにしても安住はすごい。
いまさら、プロと研究会をしようなんて言うんだもん。
12ページに研究会は利用価値が無ければ誘われないし外されると書いてある。
これはその通りでアマでも同じ。だから下の者は積極的に最新研究を披露するか会が良い雰囲気になるくらいのやる気をみせる必要がある。
安住と土屋は現役奨励会三段の練習パートナーとして利用価値があると認められ研究会への参加を許された。
しかし…
安住、、
研究会初日、かつて奨励会の後輩だった子達に頭を下げるのは泣ける。
当然とは言え泣ける。
頑張れ!
こういうプライドを捨てた姿を見ると否応無しに応援したくなるね。
『ヤンケの香介』4巻でも強くなるには人生修行が大事と書いてあったしな。
最初の研究会はボロボロの成績だったが前向きに終わる事が出来た。
女性唯一の奨励会三段 宇野ちゃんはかわいい。
安住はますます将棋にのめり込む。
デート中も途中退出して外で将棋のことを考えている始末。
将棋にのめり込むと仕事・人間関係がおろそかになる。
これが怖くてセーブしている人間は沢山いるよね。
・全国アマ竜皇戦前夜祭。
この大会の審判長はプロの加治竜皇。
安住が奨励会を辞めた後も将棋を続けていることを軽蔑する。
・全国大会予選1回戦
16歳で奨励会三段、17歳で医師を目指すために退会した大津と対戦。
3巻に続く!
なお、実際に15歳三段、17歳で医師を目指すために退会した奨励会員はいます。
□3巻
奨励会を前向きな理由で辞めた大津は、年齢制限で強制退会した安住を下に見ている。
「プロになれなかったってことは長年の努力が水の泡。すがるものが将棋しかないのか(26P)。」
アマ・プロ・同業の元奨励会員からですらこんなん思われるなんてあひゃ。
安住vs土屋の元奨三段対決だけ観戦者ゼロ。
元奨励会がアマの大会で何やってんの!?という見えないアローを受けながら2人は戦っている。
・加治竜皇のありがたいお言葉
「自分の形勢が悪い時にどれだけ辛抱して考えられるか、それは勝ってる時に手を読むより、はるかに辛い。弱い奴は、我慢できずにすぐ指しちまう(159ページ)。」
4巻152ページにも同じ内容が書いてあります。
これについては私も書いています^^
□4巻
人と指したことが無い天才中学生が登場。
安住は…奨励会が長いだけあって中学生のような新しい才能が次々と出てくることを知っている。
私も知っています(笑
山形にいても自分が25年かけて到達したレベルに小学生・中学生のうちに追い抜く子がいる。無理に張り合うのではなくそれを受け入れてこその第2ラウンド・リボーンの棋士だと思っています。
・アマ三冠片桐は意外と良い奴。
中学生に進路相談をされ、父から棋士への道を拒否された自身の経験を消化して、煽ることなく、まるで昔の自分に語るかのようにアドバイスした。この2人は出会ってよかったね。
・土屋に変化が・・・?
中学生の親から奨励会について聞かれる。
アマがそれを語るのと本当に地獄を見た人間が答えるのとでは説得力が違う。
80Pで土屋はこう回答。
・時間を全て投入しても8割は26歳で世間に放り出される厳しい世界だと答える。
それで終わりなら土屋らしいがこの日は、饒舌にこう付け加えた。
「自分もそうだし、安住は今では将棋の強いフリーターです。」と。
あれれ?と思った。
土屋、少し人間的に成長したか?
赤の他人のために自分がナメられる事を発信するやつだっけか?
色んなことを受け入れ始めたのかも。
なぜかこの漫画って、主人公だけでなく他のキャラ全員を応援したくなってしまうんだよね~(*'▽')
著者は読者の感情の揺らめきをうまく捉えているのかもしれない。
安住の弟も良い奴。
私にも弟がいるが未だに仲良し。
イイね。
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