作品名:『宗桂~飛翔の譜~』
ジャンル:江戸幕府公認の家元である大橋家・9代目宗桂の将棋パトロール。
著者 :星野 泰視 (山形出身)
監修:渡辺 明 棋王・王将・棋聖
出版社: リイド社(コミック乱ツインズ)
1巻の発行日:2019年3月13日
2巻の発行日:2019年8月9日
販売価格:734円
登場人物:主人公 9代目大橋宗桂(おおはし そうけい)
感想:
まず、大橋宗桂って誰だ!?って言うね(笑)。
大山康晴なら知っているけど大橋宗桂については知らない人、特に子どもは多いと思う(私が教えている小学生は名前すら知らなかった)。実は私も初代名人でしょくらいの認識でだったので調べてみたら大橋宗桂いっぱいいました!
この漫画で扱うのは初代名人の大橋宗桂ではなく九代目の大橋宗桂の話です。九代目大橋宗桂さんは1744年(寛保4年)~1799年(寛政11年)まで生きた方で八世名人には1789年(寛政元年)に就位します。漫画では9代目宗桂はまだ名人になっていないという設定なのでそこ注意。なんで名人になっていないかはのちのち明らかになっていきます!
さて、この時代は今のように戦って決める名人ではなく将棋御三家「大橋家・大橋分家・伊藤家」による世襲制の名人位です。なので目指せ名人!勝ち取れ名人!的な話ではありません。
じゃあ何なのかというと・・『宗桂』1巻は大橋家の9代目宗桂さんの仕事ぶりを拝見するという内容です。
有名なのは殿様の前で指す御城将棋や詰将棋の奉納ですが、描かれているのは将棋会所と称して賭け将棋でボロ儲けしている不届き者をお仕置きしたり、偽造免状を取り締まったりと将棋に対して「正義」を貫くシーンが多いです。
頭の弱い小悪党は「なんだてめ~は!」と歯向かってきますが少し利口な小悪党になると
「バ…バカッそいつ(宗桂)に刃を向けるってことはおカミに歯向かっているのと同じだぞ」と『ドラマ水戸黄門』の定番になっている台詞を吐きます(笑)
やってはいけない事をしているやからに正義の鉄槌を加える…
青少年の健全な育成にも大変良い漫画だと思います^^
しかしながら「悪」は最後に暴力へ訴えてきます。
将棋で懲らしめたからと言って「すいませんでした」というはずがありません。
大丈夫です(^ム^)
ちゃんと宗桂の仲間が腕力でボッコボコにしてくれます。
宗桂は「水戸黄門」、その仲間はそれぞれに使命はあるものの言うなれば「助さん・格さん」的なポジションも担っていると言えそうです。
細かい注目ポイントに触れていきます。
1、江戸という世界感
手に取ってパラパラとめくって見てください。お屋敷や街並み、町民たちの着物、ちょんまげ、住居の細かい痛み具合、電気が無い時代の影の濃淡、とにかく描き込みがすごいです。こうしたシーンを見ているだけで江戸時代にタイムスリップした気持ちになりワクワクしてしまいます。また、老中田村意次など教科書に出てくる人も登場するので「あぁこの時代の話か」と想像しながら読むことが出来ます。
2、個性豊かなキャラクター
宗桂はもとよりサブキャラ達がイキイキしていて読んでいて楽しいです。
田沼意次の息子 田沼勝助 はアツくなると詐欺に引っかかるような単細胞バカだけど腕っぷしは強い、名門田沼家の仕事はやる気が無いようで暇つぶしで宗桂と行動を共にすることが多くなる。
将棋御三家「伊藤家」の令嬢 お香 は女性だからという理由で段位をもらう事が出来ず腹いせに免状狩りをするじゃじゃ馬娘。しかし宗桂に負け「将棋盤を前にして男女の別はない、負けたのは弱さのせいだよ」という言葉にしびれ行動を共にすることが増える。紅一点的な存在で男だらけの将棋漫画を引っ張る存在になっていきそう。
宗桂・勝助・お香、3人とも江戸を舞台に所狭しと駆けずり回ります。
3、プロ棋士 渡辺明の監修がガチ
渡辺明といえば永世竜王の称号を持ち現在でも第一線で活躍する最強棋士の一人。
江戸時代であれば「大橋宗桂」クラスの棋客、本人も意識してなのかこの監修に並々ならぬはプライドをかけていることがコラムを読むと伺える。
その渡辺棋士が本気で将棋漫画の監修をするとどうなるか!
結果、いぶし銀すぎる(;´Д`)
登場キャラAはBよりちょっと強いからこんな感じ、実力伯仲であればこんな感じ…のように超一流の渡辺明棋士がキャラ同士の厳密なパワーバランスをもとに棋譜を作成しているのだ。これ本当すごい。派手な棋譜や局面図を作るのは実は簡単でそれはアマチュアの私にも出来る。ところが微妙な力関係をもとに棋譜を作るというのは難しい話でまさにプロ。将棋漫画を読んでいてここまで監修が仕事をしているな~と感じる作品も珍しいです。
また、1話につき2ページのコラムは独立して出版しても良いレベルだと思う。文章も図面レイアウトも分かりやすく見やすい、そして面白い。渡辺棋士の新たな才能が垣間見えた。
□2巻の感想
1巻を読んだ感じではてっきり悪を懲らしめながらの諸国漫遊・世直し行脚的な物語と思っていたのですが2巻で宗桂には重大な使命があることが明らかにされます。
それが…消えた初代名人大橋宗桂の棋譜集(全七冊)を探すことです。
ド〇ゴン〇ールかよ!?( ゚Д゚)
と思った方、ある意味ド〇ゴン〇ールですよ。笑
この棋譜集が無いと名人になれないのですから‥・。
しばらくは消えた「飛翔の譜」を探す旅が描かれることかと思います。
※9代目宗桂が素晴らしい棋譜を残したということでの「飛翔の譜」というサブタイトルの意味もあるかと思います。
2巻で少年漫画の王道である「目的意識」が加わり、ますます面白くなってきたと思います。変なシーンも無いのでお子さんにも安心しておススメ出来る将棋漫画だと思います!
※『宗桂~飛翔の譜』はNHKが好きそうなストーリーなのでアニメ・ドラマ化が期待できそう。ブームになる前に今のうちから勉強してTV化したら自慢げに知人・友人に語ってあげましょう。間違っても「大橋宗桂って誰?知らないっす」なんて言わないようにね(笑)
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