むかし将棋を頑張っていた人は目頭が熱くなる将棋漫画『将棋を指す獣』1・2巻の感想

作品名:『将棋を指す獣』1巻・2巻(絶賛連載中)
ジャンル:元奨励会三段もの
著者 : 左藤真通
監修: 瀬川晶司六段
出版社: 新潮社(バンチコミックス)
1巻の発行日:2018年11月9日
販売価格:677円(電子書籍:540円)
登場人物:主人公 弾塚光
このメガネが主人公です⤵
感想
面白かったので感想を書く。
この先、ネタバレ注意でお願いします。

□第1話 弾塚光

開始早々、主人公の弾塚光がプロの天竜戦七番勝負を戦っている描写からスタート!

七番勝負の行方はどうなるのや~とページをめくると…

時間が戻って、アマチュア天竜戦東京予選が始まりました⏱

そこでこの漫画はアマの光がプロ天竜戦に出るまでのお話と理解しました。したがって実力的に光はそういうレベルなんだろうなと、案の定元奨励会三段の加賀見(かがみ)氏をふっとばして東京予選無事優勝!

・アマ強豪の描き方がツボる
加賀見氏は強豪特有の異様な雰囲気を放っており人間的にダメそうな感じで描かれている。体も変な感じで曲がっており人生の紆余曲折さを感じる。ここらへんの描写はすごくうまい、笑ってしまった。1日目のジャージから2日目スーツで登場したのは新聞に写る事が想定されるので配慮したのだと思う、これもアマ大会あるあるである。

・42、43Pの黒と白の使い方はゾクっとした。
弱いものは食われていくという作品の世界観と見事にマッチしている。


  

□第2話 可能性0%
56Pの扉絵の光の将棋研究部屋いいね!
ぜひ見てみて。

1巻32P、棋書に埋もれながら生活している。
将棋にハマってのめりこんだ経験がある人ならこういうシーンで胸がアツくなりませんか?

57P、部屋のカレンダーに将棋の予定が書いてあるのを見てジ~ンときた。
常に目標に向かって生きている光。
何もやらず将棋への未練が捨てきれない人ほど「俺は一体何をやっているんだ」と思うシーンである。さりげなく描かれた目覚まし時計も非常にノスタルジックな気持ちにさせてくれる。時間は戻ってこない、それどころか時間は進み続けている。光はタイムリミットの中で戦っているのだ。

さて、タイトルの「可能性0%」とはアマチュアから奨励会三段編入試験に受かってプロになれる確率のことである。129Pのコラムでは、監修の瀬川プロ自身が第一号の特例で使用した「プロ棋士編入試験」の方が奨励会三段リーグを戦うよりもプロになれる可能性はあると書いていた。奨励会三段リーグはほんと大変なのでプロ棋士編入をメインで棋士を目指す人も出てくるのかなぁと思いました。
    
・75ページに登場した次の1手問題。
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どう受けるか?という良い問題です。
この漫画は解説が一切無いので私が解説記事を勝手に書きました\(^o^)/

□第3話 アマ天竜戦、開始
主人公、弾塚光が元奨励会三段だったことが発覚。
『りぼーんの棋士』もそうだが元奨励会三段が再起を誓う系の漫画が流行りなんですかね。

「アマ天竜戦」とはリアルでは「アマ竜王戦」のことだろう。
私は平成29年、確かに全国アマ竜王戦に出場していた。
このとき全くといってよいほど準備をしていなかった。仕事が忙しすぎたのもあったが準備をしたところでどうにかなる問題でもないという開き直りもあった。
しかし、この漫画に出てくるおじさん👨代表は仕事が終わってから寝る間も惜しんで勉強している。私と同じ予選落ちではあったがリスペクトに値する、目頭が熱くなった。

 この漫画はモチベーションが下がっている時に読むと高まるシーンが結構あるので自己啓発本としても良いですね^^

□第4話 家族の絆
指が滑り、駒を落とした。
その瞬間「銀!」と盤面を指でさした、…が時間は切れた。

一瞬、「時間切れても指をさせばOKだっけか?」と期待した選手がいた。

これどうでしたっけ?
駒を滑って落とした時は、着手したマス目を指でさしながら譜号を言って時計を押せばOKだった気がする…。切れたらアウトですよね、さすがに。

□第5話 アマ天竜・決勝戦(前編)
光vs 羽嶋が始まった

1巻最後で、新キャラのおねーさん登場。
奨励会三段唯一の女性、菊一文子(きくいちふみこ)。
メイクばっちりでモデルのようなスタイルなのだが・・・
将棋をやっているだけあって変人の気アリ^^


【 第2巻の感想 】

□第6話 アマ天竜・決勝戦(後編)

羽嶋は悪気の無いナルシスト

例えばP26「今年度もアマ将棋界を牽引する存在になる、そのために僕は惜しまず努力してきたはずだろ」と自分を鼓舞しているが、頭の中には女の子に囲まれて握手しているシーンが映っている。

羽嶋は「モテたい」というモチベーションだけでここまできたのならすごすぎると思った。

◎27P
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先手弾塚の手番、ここで羽嶋の狙いに気づき正着を指せるか。
これ読みきるのは難しい~。

□第7話 酩酊の三面指し
◎60P、居酒屋で弾塚光vs大月記者の「歩三兵」
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これがなかなか曲者なルール、詳しくはこの記事で解説。

□第8話 幻影
菊一文子奨励会三段のお部屋初公開!
菊一はファッションもメイクもイケイケな感じで光とは対照的なキャラかと思っていたのだがどうも違うみたいだった。「家が金持ちそう」「慶応大学行ってそう」って雰囲気があったのだが実際に住んでる場所はこじんまりとしたワンルーム。玄関から歩いてすぐの場所に布団を敷き寝ている。
『将棋を指す獣』2巻98P、実はこのシーンに菊一文子の性格を読み解く大事なアイテムが映っている‥・と思う。それが・・

ドラム式洗濯機!!
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洗濯物をぶちこんで回せば自動で乾燥までしてくれる。

洗剤もタンクにいれておけば毎回入れる必要が無いので超便利です。
自分の時間を作りたい方は買った方が良いと思います。
私も春先に買いました^^
菊一は、将棋が強くなるために時間を捻出する投資は惜しまない性格で文明の利器を好む→将棋も最新形に精通したスタイリッシュな棋風なのかなと予想します!

□第9話 41手
P118  光と菊一文子は同門という事が判明。
小林門下は、「奨励会員は人間じゃない。修行中は将棋のみ。取材を受ける事は一切禁止」を掲げる超厳格な門下。

今では、取材どころか奨励会員もSNSで発信したりしていますよね。
奨励会を受ける層や意識も昔と今とでは変わってきました。

ただし漫画で平和な奨励会を描かれても面白くないので冒頭の3原則はこの世界観を作る上で大事な線引きだと思います。

 ちなみにですが「奨励会員は人間じゃない」発言は監修の瀬川六段の著書『泣き虫しょったんの奇跡』にも出てきます。以下は引用。

誰かが面白い冗談を言った。~その場のみんなが笑った。奨励会員も笑った。すると、あるプロ棋士が奨励員にいった。~奨励会員は人間じゃない、だから笑う資格がない、というのだ。~アマとプロ、どちら側から見ても人間じゃない、それが奨励会員なんだ。~べつに悲壮感のようなものはなかった。だから早くプロになるんだ~、と。

厳しいね。
 

137P、▲弾塚光12歳vs△菊一文子12歳の将棋は、飛車先不突右四間vs53銀型四間へ。
下の図のように進む。
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これは2002年5月発売の『三浦流右四間の極意』。
プロでは確か久保先生が三浦先生とやりあっていたイメージ。
1手間違うと後手はアウトなので研究が大事な戦型です。
  
三浦流右四間は2002年12月に発売された『島ノート』でも詳しく取り上げられ、新研究まで披露されています。
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後手の受け方としてはこの△14角が良い手なんだとか。興味のある方は読んでみてください。
 

142Pの絵タッチはゾクッとした。
1巻で光は将棋に夢中になると周りが見えなくなるエピソードが描かれていたがまぁそれは将棋関係者ならよくあること。このシーンはなんだろう、もしかして何かに取り憑かれた系か!? 

106Pや108Pもそうだがこの漫画の感情表現は怖い。

□第10話 「ありません」
1話から順調に突き進んできた光がはじめて壁にぶち当たる話。
奨励会時代の師匠だった小林先生に三段リーグ編入試験の師匠推薦をお願いする。
しかし、結果は…。

186P、ぽかーんとした光の顔があどけなくて少女の頃まで時間が戻ったような感じがした。

ところでこの話を読んで小林という名前の由来にピンときた。

2006年に元奨励会三段の今泉健司(現四段)さんも奨励会三段リーグ編入試験に挑戦をしようとした。その時、以前の師匠へ頼みにいったのだがなんと断われてしまった。その師匠の名前が小林健二九段。分かる人には分かるネタですね。
このエピソードについては『介護士からプロ棋士へ』第5章をどうぞ。
ちなみに小林九段が断ったのは「弟子のことで苦しむことがもうできない」という理由です。今泉六段も本で「あれだけ迷惑かけたんだから当然だ」と述べています。

□第2巻 総括
弾塚光が強すぎてひとり主人公感が半端なかったが本編初の挫折。
ここから成長の物語が始まるのか?
それともパワー無双するのか。
続刊が楽しみです!

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あべしん

・アマ五段(県竜王戦優勝)の四間飛車党
・中学、高校、大学、社会人で県優勝
 →全国大会出場
・地元紙で将棋の観戦記を書いてます
・連絡先→kouteipengin6@gmail.com

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